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INTERVIEW インタビュー

(01-04)

植田益朗の「GUNDAM LAST SHOUTING」

(2022.12.16)
第一回
ガンダム大地に立つ!!

―――本インタビュー「植田益朗のGUNDAM LAST SHOUTING」は、『機動戦士ガンダム』(1979)にてアニメ業界入りされ、『∀ガンダム』(1999)に至るまでの約20年間、様々なガンダム作品を手掛けられたANIMUSE館長・植田益朗さんに、ガンダムに関わる20年間の全てを叫びきっていただこうという趣旨の企画記事です。その中でまずは、制作進行として携わられた『機動戦士ガンダム』について、その当時の制作現場のことや、今、改めて作品をご覧になった上でのご感想など、様々な観点から語っていただこうと思います。

植田益朗(以下、植田):はい、どうぞよろしくお願いします。

―――記念すべき第一回は、TV版『ガンダム』第1話についてお話しいただきます。今回のインタビューにあたって改めてTV版の第1話をご覧いただいたのですが、これまで第1話をご覧になる機会は多かったんでしょうか?

植田:第1話に関しては結構多いんだよね。この後劇場版をやる時に第1話はほとんどまるまる使っているので、編集で何回も見てるんですよ。だからだいたいのカットは頭の中に入っていますね。でもTV版として見た機会は……あまりなかったかもしれないね。

―――今回改めてTV版の第1話としてご覧いただいて、いかがでしたか?

植田:いやー、よくできてるよね。いや本当に。よくできてるなと思いました。

―――様々な魅力が詰まった1話ですが、どういった点に一番感心されましたか?

植田:一番感心したのはキャラクターの捌き方ですね。キャラクターの出し入れと組み合わせ。第1話と第2話でその後のメインのキャラクターたちがちゃんと全部紹介できていますよね。あれはすごいなと思って。

―――そうですね、主だったキャラクターはほぼほぼ出そろっていますね。

植田:その上で、アムロとお父さんの関係だとかフラウ・ボゥとの関係だとかというキャラクター同士の関係や、各々のキャラクターたちがそれぞれどういう性格なのだとか、そういったことがものすごく的確に表現されていて。それでいて、宇宙を舞台にした戦争が始まっているという大きな設定、お話を始めるための前提も、本当に上手くまとめているなと感心しました。
あの時代にああいうものを作っていた人たちの能力には、こう、圧倒されますね。ライターの星山(博之)さんと富野(喜幸、現、由悠季)さんのコンテ。特にベースにあるのは、星山さんのキャラクターに対する愛情ですね。

―――その後、『銀河漂流バイファム』(1983)『シティーハンター』(1987)、『∀ガンダム』など、数多の植田作品でご一緒することになる星山博之さんですね。『ガンダム』第1話の脚本も星山さんが手がけられています。

植田:特に、アムロがフラウ・ボゥの両親が爆発でやられちゃって、そこでアムロが「逃げるんだ」「君は強い女の子じゃないか」って言うじゃないですか。あのシチュエーションでああいうことが言える二人の関係が描けていることが、改めてすごいなあ、と。

―――おそらくフラウは面倒見のいい強い子で、アムロも普段自分がお世話になっている側だということを理解しているから、ああいうことが言えるんでしょうね。

植田:でも急にあんなことになると、当然だけど折れちゃう。そこでアムロが逆に励ます。関係の逆転でもありますし、ある意味アムロの主人公としての目覚め、みたいな要素もありますよね。

―――開始約15分で、キャラクターたちの背景やドラマを感じさせる作りになっていますね。また、物語冒頭とあって、特にアムロの描写を丁寧にしている印象が強いですね。

植田:そうだね、主人公だからね。引きこもり系なんだけど負けん気が強い(笑)。

―――結構口答えをよくする(笑)。

植田:絶妙なバランスでキャラクターができてますよね(笑)。

―――確かに、いわゆる陰気で弱気というキャラクターではないですよね。陰気だけどどちらかと強気ですねアムロは。

植田:いやー、素晴らしい作品です。

―――お話を伺っていますと、植田さんは特にキャラクターやストーリーの面に注目されているのを感じます。人物で言えばやはり星山さん、なのでしょうか。

植田:当時は分からなかったですが、今、見てみると、星山さんの存在は『ガンダム』という作品においてすごく大きかったんだな、と改めて思いますね。
当然、『ガンダム』はいろんな人の力が合わさってできているってこともあるんですけどね。でも今回見てみて星山さんの存在は強く感じたし、純粋に物語に感動もしましたよね。先ほどお話したアムロがフラウを励ますシーン、ウルウルッときちゃったんだよね(笑)。

―――あれはきますね。番組が始まってまだ15分くらいしか経っていないのに、いきなり人間ドラマに引き込んでいますよね。

アニメプロデューサーにとっての第1話の意義

―――植田さんはその後プロデューサーとして多くのアニメをお作りになるわけですが、この『ガンダム』第1話に並ぶような第1話というと、他にどんな作品が挙がりますでしょうか。

植田:そりゃあもう、僕がやった作品は全部素晴らしいですよ(笑)。

―――そうでした、大変失礼しました!

植田:いや本当にね、第1話は一番大事ですからね。プロデューサーにとっても第1話をどう作るかということは、作品としての中身の演出論だけでなく、今後内外に作品をどう見せていくかということにも繋がってくることですから。
アニメ制作には監督や脚本家、アニメーターなどたくさんのスタッフがいるわけですが、第1話によってそのあと作品をどう作っていくのかがほとんど決まります。そこでプロデューサーの中に「この作品はこうすべきだ」「こうできたらいい」ということが明確にないと、作品そのものがフラフラッとしたものになってしまいます。『ガンダム』の時は自分はそういう立場ではなかったんですが、その後自分がやる作品に関しては、第1話は大事だし、こだわっていますね。一種のお披露目なんですよね、第1話は。

―――アニメの第1話には、見てくれるお客さんに対しての「この作品はこういう作品なんですよ」というメッセージというだけでなく、作り手側に向けてのメッセージでもあるんですね。

植田:そうだよね。多くの場合、シナリオの打ち合わせの段階で第1話がどうやって始まってどこまでで終わるのか、どうすれば適切なのかを考えながらミーティングするわけです。それがその後コンテになって脚本家や演出家の手に渡りどんどん形になっていって、時には多少内容が変わったりもするんだけど、そこに至るまでには作品のパッケージとなる形がだいたい決まってないといけないんです。
そのためにスタッフたちと討論を重ねて、「この作品はこういう作品でここが一番の狙いだから、ここは大事にしていきたい」だとか「ここは外しても、ここには力を割こう」だとか、そういったことを決めるんですね。その時点で監督やライターさんと意見のすり合わせをしてスタッフみんなが作品の軸となることを共有できていれば、第1話だけでなく作品全体も方向性がぶれないと思いますし、あとはスタッフのみなさんの能力を信じてお任せするだけ、という感じですね。それが作品作りにおけるプロデューサーの一番大事な仕事かなと僕は思っています。
まあそのスタッフィング自体もプロデューサーの仕事なんですけどね。

―――そういった全方位的なメッセージが込められていると思うと、『ガンダム』に限らずいろんなアニメの第1話を改めて面白く見られそうです。

青年・植田が見た『ガンダム』の印象「アニメでやる必要、ある?」

―――ここまで今の植田さんの視点から『ガンダム』についてお話しいただきましたが、ここからは当時の植田さんについても伺いたいと思います。当時植田さんは『ガンダム』という作品に対して、どのように感じられていたのでしょう?

植田:いろんなところで言っていることではあるんですが、「敢えてこういったストーリーをアニメでやる必要があるのか?」「こういうことを伝えたいなら実写の方がいいんじゃないか?」と、最初の頃は思っていたわけです。

―――それは具体的にはどういうことでしょうか?

植田:宇宙を舞台にしたSF的な作品という意味では当時既に『スター・ウォーズ』(1977、日本公開は1978)が公開されていましたし、先ほどのアムロとフラウやブライトとのドラマのようなものであれば、実際の役者が演じた方が伝わるんじゃないか?といったようなことですね。

―――植田さんは『ガンダム』でアニメ業界に入られる前、学生時代に『殺人遊戯』(1978)など実写映画の制作現場を経験されていたと伺っています。そういった経験もあってそう感じられていたんでしょうか。

植田:当時は実写映画に対するシンパシーも強かったのかもしれませんね。また、自分がそれまであまりアニメに触れてこなかったこともあって、最初に「なぜアニメで?」と感じたんです。振り返ってみれば、『アルプスの少女ハイジ』(1974)とか『赤毛のアン』(1979)とか、アニメでもドラマがものすごくしっかりした作品はあったんですけどね。
『ガンダム』では自分はシナリオにはタッチしていないので上がってくるものを見ながら仕事をする、という感じだったのですが、そうやってずっと見ていくうちに、ドラマをちゃんとやっているというか、「逃げずにドラマにちゃんと向き合っている」ということがだんだん分かってきたんです。

―――そこで言う「逃げ」というのは、どういうことでしょうか?

植田:たとえば、でかいモビルスーツという人型兵器は、当然リアルじゃねえなと思うわけです。モビルアーマーにしてもゴッグ、ズゴックにしても「これが兵器ですか?」と思っちゃうようなデザインのものが『ガンダム』には多数出てくるわけですが、作品自体には不思議とリアリティを感じるじゃないですか。
それは世界観やキャラクターやストーリーのおさえ方によるもので、一度自分たちが決めたテーマ、つまり「ちゃんと人間関係やドラマを描こうよ、そういったことから方針を逸らさずにやろう、やり続けよう」ということから逃げなかった結果だと思うんですよね。そういうことは当時もすごく感じましたね。

―――先ほどの、植田さんがアニメプロデューサーの仕事として一番大事にしていることのお話にも通じることだと感じます。

植田:そこはやはり、アニメ業界に入って最初に携わったのが『ガンダム』だった影響でしょうね。

―――ものづくりにおける大事なことを、この後『ガンダム』の現場で学んでいくことになるわけですね。

植田:そうですね。でも最初の頃は本当に「なんでこんなことをわざわざアニメでやるの?大変なのに」と思っていましたね(笑)。

(第2回へつづく)

取材・執筆:いしじまえいわ
撮影:成田剛
取材協力:Coffee& cafe restaurant AOYAGI(https://aoyagi-cafe-restaurant.com/
協力:株式会社バンダイナムコフィルムワークス
Ⓒ創通・サンライズ

INTERVIEW インタビュー

narrator pic
植田益朗の「GUNDAM LAST SHOUTING」

語り:植田益朗
取材・執筆:いしじまえいわ
撮影:成田剛(UNAP)

植田益朗「ANIMUSE」館長が、アニメ人生のスタートである、1979年「機動戦士ガンダム」からサンライズ退社の1999年「∀ガンダム」プロデュースまでの20年間の「ガンダム」との関わりを、洗いざらい語り、叫びつくす注目のコーナー。
「機動戦士ガンダム」第一話から始まり、全ての関わったガンダム作品を見直し、そのエピソード、関わったスタッフ・戦士たちの思い出や、当時のスタジオの雰囲気や当時のアニメ業界の事を語りつくす。
「これを読まずしてガンダムファンを語ることなかれ!君は生きのびることが出来るか!?」(植田館長談)

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