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INTERVIEW インタビュー

(03-04)

植田益朗の「GUNDAM LAST SHOUTING」

(2023.01.13)
第三回
敵の補給艦を叩け!

―――本インタビュー「植田益朗の GUNDAM LAST SHOUTING」は、『機動戦士ガンダム』(1979)から『∀ガンダム』(1999)に至るまでの約20年間、様々なガンダム作品を手掛けられたアニメプロデューサー/ANIMUSE館長の植田益朗さんに、当時制作進行として携わられていた『機動戦士ガンダム』について様々な観点から語っていただくコーナーです。植田さん、どうぞよろしくお願いいたします。

植田益朗(以下、植田) : はい、どうぞよろしくお願いします。今回も杉並区上井草駅前にありますレストラン・AOYAGI(https://aoyagi-cafe-restaurant.com/)さんに場所をお借りして収録をさせていただいています。いつもありがとうございます。「ガンダム上井草聖地作戦」ということで、ガンダムの生まれた地でラストシャウティングさせていただき、今後他にも面白いことをしていきたいと思います。

―――さて、今回はTV版『ガンダム』第3話「敵の補給艦を叩け!」についてお話を伺いたいと思います。第1話第2話では「キャラクターの配置、捌き方」が印象的だったと仰っていましたが、第3話はどのような点が印象に残りましたか?

植田 : 2話までで描かれた連邦とジオンの関係、アムロとシャアの関係をそのまま引き継いでいる、いわば完全な連続ストーリーですよね。ロボットもの、アクションものとしての魅力に加えて、戦争もの、作戦シミュレーション的な要素を絡めていて、視聴者の興味の引っ張り方がすごく巧みだなと感じました。

―――確かに「補給」という一見地味な要素をモチーフにした1話ですね。

植田 : しかも敵側、シャアの方のドラマとしてね。「すごいはずのシャアがやられてしまった。その原因はどうやら連邦の新しいモビルスーツにあるらしい。じゃあなんとかしてそれを奪取しろ、という上司から与えられたミッションがシャアにはある。ではそのために、やられた分のザクなどの補充をしなければならない」と。

―――そこを逆にホワイトベース隊に強襲されて、補給はできたもののまた仲間を失い、ガンダムらの強さと異質さを実感することになる、というわけですね。こうして抜き出してみるとシャアの側の補給事情だけでも物語になっているのが面白いですね。

植田 : それまで、そんな細かいシチュエーションをモチーフに選ぶことは、ロボットアニメではそんなになかったんじゃないかな?

―――他にあったとしても、第3話という早い段階でそういったモチーフを配することで独自の作風が強く打ち出している印象ですね。

植田 : そういうディティールに入りつつも、それぞれのキャラクターの性格とかホワイトベース側の、たとえばブライトとアムロの人間関係なども見せていて、今考えると巧みな構成だなと感じました。

―――特にアムロとブライトの関係はシリーズ中盤くらいまでずっと不和が続いていて、2人の関係の変化自体が物語の見所の一つになっていますね。

植田 : ブライト・ノアというキャラクターの立ち位置もあまりなかったんじゃないかな。いわゆる司令官というか、チームのキャプテン、リーダーとしては、ああいうキャラクター造形には作らないんじゃないかと思う。普通もうちょっとリーダーっぽく「みんな頑張ろうぜ!」と引っ張っていくようなタイプにすると思うんだよね。

―――そういえば第3話では、シャアを攻めるか逃げるか、作戦を民間人を入れた多数決で決めてましたね。

植田 : あれすごかったね(笑)。劇場版ではカットされてるから久しぶりに見てびっくりしました。いきなりああいう立場に置かれて自分では判断できない、という描写でもあるし、結局アムロが手を挙げるのを待ってる、つまりアムロに判断を委ねてるようでもあったよね。

―――アムロが戦うと言わなければ、いくら多数決をとっても結局戦えませんもんね。アムロはもちろん、ブライトもまだ未熟で、今後の成長ドラマを匂わせていますね。

『ガンダム』の作画事情

植田 : ……とまあ、構成は非常に巧みなんですけど。TVシリーズにはありがちな事なんですが、作画がだんだん乱れてきている、というね(笑)。

―――第3話にして早くも疲れが見え始めている、と(笑)。

植田 : というより、いいスタッフを集められればいいんですが、なかなかそれができないという事情は今も昔も変わらずあるわけだよね。じゃあどこに重点的にスタッフを充てるかというともちろん1話2話だし、『ガンダム』であれば安彦(良和)さんが初期エピソードの作画監督をすることになるわけです。第3話も安彦さんなんだけど、あんまり安彦さんの手が入ってないんじゃないかな、というところもちょっと見えてきてますね。

―――安彦さんが最低限ここには手を入れる、という箇所はどこなんでしょうか。

植田 : やっぱりメインのキャラクターの顔やバストサイズとかはかなり手を入れてると思います。

―――モビルスーツもでしょうか?

植田 : もちろんモビルスーツも描かれています。具体的に3話のどのカットが、というのは分かりませんが、第3話は全体的に乱れてきているという印象は受けました。爆発シーンや煙の表現も、なんというかこう、懐かしい感じだな……と(笑)。今じゃああいう絵は描かないだろうね。

―――爆発のアニメーションは、『ガンダム』以降のアニメーターさんは特にこだわるようになって進化したところですよね。

植田 : そういう作り手側も含めたトレンドがちょっとずつ変わり始める時期でもあったはずなので、そういう意味でも作画チームは大変だっただろうなと思いますね。

―――爆発やミサイルという意味ではこの後『超時空要塞マクロス』(1982)が注目を浴びますが、その前に『伝説巨神イデオン』(1980)があって、『ガンダム』の劇場版があって。

植田 : 板野一郎くんとかの仕事だよね。

―――板野さんがガンダムに参加されたのはどの辺りからでしょうか。

植田 : TV版の途中からです。彼が入ったのは僕と同じか少し後くらいだったかな? どのタイミングだったかは忘れましたが、TVの後半では徹夜でスタジオにいる常駐メンバーの一人でしたね(笑)。途中から動画で参加して、TVシリーズの最後の頃には原画になって、その後『ガンダム』の劇場版や『イデオン』を経て「板野サーカス」と呼ばれる個性的な表現をするようになっていく、という感じですね。彼についてはいろいろ語れると思うので、この連載の中でも後々触れていこうと思います。

―――ところで、1979年時点において、『ガンダム』は作画の難しいタイプのロボットアニメだったのでしょうか?

植田 : それはもう、超難しい、というか面倒くさいアニメですよ。メカの線は多いし、監督の絵コンテが求める演出や演技も単純じゃないんで。

―――植田さんは当時すぐにそれを実感されたんですか? それともだんだん分かってきた、という感じでしょうか。

植田 : 制作進行の仕事をしているうちにいろんなスタッフと話をするようになるじゃないですか。すると作画さんから「めんどくさいなあ」「何でこんな線が多いメカにするんだよ」「ガンダムの全身1枚描くのにどのくらい時間がかかると思うの? ドラえもんだったら10倍描けるぞ」とか散々言われるわけです(笑)。

―――そうか、同じロボットアニメではなく、同じ時代のアニメ全体で比べないといけないんですね。ファミリーものや、もっと低年齢層向けの作品の方が多いと考えると、確かに『ガンダム』は線が比較的多そうですね。

植田 : その分少しは(ギャランティが)多めだったと思うけど、本当にほんの少しでしたね。10倍手間がかかっても10倍にはならないよね(笑)。

「なんて緊張感のない現場なんだ」

―――植田さんは『ガンダム』の放送が始まった頃に制作進行としてサンライズに入られたと伺っています。第3話放送時はまさに入りたてだったかと思いますが、この頃には安彦さんなど中核スタッフとお会いしたり話したりすることはあったんでしょうか?

植田 : それはもちろん。富野(由悠季)さんも同じビルの同じフロアにいますから。隣の部屋、というより、部屋の一角に間仕切りがしてあって、富野さんが一番端っこの窓側。その隣が安彦さん。あと演出さんが2人くらいいました。

―――メカニカルデザイナーの大河原邦男さんは普段そこにはいらっしゃらないんですか?

植田 : 大河原さんは基本的に自宅作業で、各話に必要な設定資料を描いてもらって毎週取りに行くんです。大河原さんの自宅とサンライズのだいたい中間あたりが調布の東京現像所なんで、そこの駐車場で待ち合わせて受け取っていました。

―――そんな、マフィアの裏取引みたいな感じで?

植田 : そう。「約束のモノ、新しいモビルスーツと小物の銃だ」「ありがとうございます」って言って受け取って帰る、という感じだね(笑)。大河原さんが乗ってた車、なんていったっけな……とにかくカッコいい車に乗ってるんですよ。

―――大河原さんご自身もカッコいいですもんね。

植田 : そうそう。スタイルもいいし、ダンディな感じでね。こっちはボロい進行車ですから(笑)。まあそれはそれで結構楽しかった気がするけどね。
とはいえ第3話の頃は本当にみなさんとようやく顔を合わせ始めた、という時期ですね。まだ入りたてで、今回話したような物語のディティールとかアニメとしての表現の良し悪しとか、作画の大変さや相場感なども、全然分かってなかったと思います。

―――植田さんは学生時代に実写映画の制作に携わっていたと伺っていますが、この頃初めてアニメの現場に入って、実写の世界と比べてどのように感じられましたか?

植田 : 比較して一番感じたのは「なんて緊張感のない現場なんだ」ということですね。

―――ちょっと、急になんてことを言うんですか!(笑)アニメの現場はヌルい、と?

植田 : だって、アニメの場合、制作工程によって関わる人が変わっていくじゃないですか。原画は原画、動画は動画、仕上げは仕上げ、という感じで。

―――そうですね。

植田 : 一方実写の場合は、1つの場所に役者さんがいてセットがあって、マイクさんがいてカメラさんがいて照明さんがいて監督がいて……と、プロダクションワークはみんなが集まってやるんです。だから撮る瞬間にはすごく緊張感がある。
アニメの場合の画作りは、作画打ち合わせから始まって、原画があって、演出がチェックして、作監が修正して、動画に回って仕上げに行って、背景と合わせて撮影して、それでようやくフル(完成)になる。その間、同じ絵に関わっているスタッフが会うことはないわけです。
その間をつなぐのが制作進行の役割で、そのプロセスの中でいかにカットの質がよくなるように上げていくかが制作の仕事なんだ、ということは後々分かってくるのですが、当時の僕にはまだそこまで分かりませんから、「一体どこで緊張するんだろう?」と思っていたわけです。

―――みんなで一緒に息をひそめて作業に集中する瞬間がない、ということですね。

植田 : そう。実写の世界にあった何とも言えない緊張感、終わった時の達成感や安堵感。役者の演技や小道具の動作が上手くいったことをみんなで確認して、さあ次のカットにいこう、という、緩急、というのかな。アニメも同じ映像というものを作っているんだけど、やり方は全く違う。それが少し寂しいな、と思っていたわけです。

―――別に「アニメの現場はヌルいな」「チャチな現場だな」と思っていたわけではない、と。

植田 : 単に制作工程の違いですよね。違うからこそ、どこでテンションを上げればいいのか難しく感じたわけです。ものづくりとしてヌルいとか、どっちが優れている、といった風に感じたわけではないです。

―――失礼しました。少し意地悪な伺い方をしたのは、当時は実写に比べてアニメは一段低いものと見られていて「たかがテレビまんが」と言われていた、ということは富野監督が何度も本やインタビューなどで仰っていて、それを創作の原動力にもされていたということなので、植田さんに関してはどうだったのかを伺いたかったんです。

植田 : なかなかいやらしい質問をするね(笑)。確かにそういう言われ方もした時代だったけど、僕はどっちがいい悪いという風には思いませんでした。ただ、他の現場を知ってるからこそ、ちょっと物足りないな、とか、自分に合うんだろうか? といった思いは持つわけです。『ガンダム』第3話の放送のもうちょっと後、1、2ヶ月後くらいまではそういう比較が自分の中にあったのは事実で、次第にアニメの現場に慣れていき、アニメだからこその面白さも分かるようになっていった、という感じですね。

(第4回へつづく)

取材・執筆:いしじまえいわ
撮影:成田剛
取材協力:Coffee & cafe restaurant AOYAGI(https://aoyagi-cafe-restaurant.com/
協力:株式会社バンダイナムコフィルムワークス
Ⓒ創通・サンライズ

INTERVIEW インタビュー

narrator pic
植田益朗の「GUNDAM LAST SHOUTING」

語り:植田益朗
取材・執筆:いしじまえいわ
撮影:成田剛(UNAP)

植田益朗「ANIMUSE」館長が、アニメ人生のスタートである、1979年「機動戦士ガンダム」からサンライズ退社の1999年「∀ガンダム」プロデュースまでの20年間の「ガンダム」との関わりを、洗いざらい語り、叫びつくす注目のコーナー。
「機動戦士ガンダム」第一話から始まり、全ての関わったガンダム作品を見直し、そのエピソード、関わったスタッフ・戦士たちの思い出や、当時のスタジオの雰囲気や当時のアニメ業界の事を語りつくす。
「これを読まずしてガンダムファンを語ることなかれ!君は生きのびることが出来るか!?」(植田館長談)

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