INTERVIEW インタビュー
エモーション魂
発動!「怪獣復活計画」
渾身の企画「怪獣復活計画」をまとめあげた渡辺 繁。それは「ガンプラ」にも匹敵する新たなるキャラクターブームを生み出す可能性を秘めていた。渡辺は企画書を携え、当時のポピー常務・杉浦幸昌氏に対して直訴を決意する。その結果は……
常務の持論「まず打席に立て!」
―――「怪獣復活計画」を企画書にまとめ、それを当時常務だった杉浦さんに直接渡そうとしたんですね。
渡辺:そうです。杉浦さんは、朝の8時過ぎ頃には、会社にいらっしゃっているんですよ。新人だった時には、自分は朝一番に出社していました。だから、毎朝最初に会うのが、杉浦さんだったんです。「おはようございます!」って挨拶した後は、何も話すことなんかありませんから、先輩社員が出てくるまで、ずっと沈黙の時間が続くんですよ。
だから、企画書を渡すのもそんな朝を狙ったわけです。
―――直接上司の方とかを飛ばしての直訴ですよね。それにしても、勝算はあったんですか?
渡辺:杉浦さんの持論のひとつに「ホームランを打つには、まず打席に立ってバットを振ってみることが大事だ。打席に立たずにベンチの裏で練習だけしていても永遠にヒットもホームランも打てない。三振してもいいから打席で振ってこい!」というのがあるんです。この言葉を信じていましたから。
―――で、結果は?
渡辺:「これやらせてください」と企画書を手渡したら……その場で目を通されて、「面白いな、やってみろ」とおっしゃってくれたんですよ! 即決でした。
―――かっこいいですねぇ。これでついに「怪獣復活計画」発動!というわけですね。
渡辺:ええ。その時、杉浦さんからひとつアドバイスをいただいたんです。当時、『ウルトラマン』の版権窓口だったのは、TBSの子会社で日音というところだったんです。そこの内藤さんという方が面白い人脈を持っているから相談してみてはどうだ、と。内藤さんとは、版権管理の仕事を1年やったおかげで、すでにかなり仲良くしていただいていたので、相談しやすかったですね。
―――ここで証紙集めの日々が役に立ったわけですね。
渡辺:どんな仕事も無駄にはならないんですよ。
最強の軍師・安井尚志
渡辺:この内藤さんの紹介でお会いしたのが安井尚志さんでした。最初にポピーの4階の会議室に来てくださった時、大きな紙袋を持っていらっしゃるんですよ。その中から出てきたのが、『ウルトラQ』のガラモンでした。大きさは30センチぐらいはありましたね。それを作ったのは、芸術家の高山良策さんだったんです。
―――高山良策さんといえば、初期ウルトラシリーズの怪獣造形で有名な方ですよね。
渡辺:ガラモンをはじめとした初期怪獣のほとんどは高山さんの造形ですから、いわば、そのガラモンは、限りなく「本物」なわけです。オリジナルの持つ何とも言えぬ雰囲気がたまらなかったですね。
ガラモンを眺めているうちに、閃いたんです。この30センチサイズというのは、ガンプラでいうところの1/144スケールなんじゃないか。当時の怪獣キャラクターは、ゴジラが身長50メートル、ウルトラマンは40メートルといった大きさがスタンダードだったんです。ガンプラのスケールにあてはめた途端に、今まで机上のものだった「怪獣復活計画」の商品展開が見えてきました。
この30センチスケールはハイエイジ、いわゆるマニア層向けの商品にする。彼らはブームの最初のフックになりますからね。あとは、子供向けのキン肉マン消しゴムと同じ小さなサイズを設定して、その間を段階的に大きさの違うソフビ人形などの商品を開発して、時間差で次第に広く展開していけばいいんじゃないか、と。
―――商品イメージが高山さんのガラモンを見て一気に具体性を帯びてきたわけですね。
渡辺:ええ。あとは、いかに造形していくかなんですが、ここでひとつ自分なりの指針を立ててみたんです。
過去3度の怪獣ブームの商品群の多くは、常にソフトビニールの怪獣人形があったわけなんですが、そのほとんどがデフォルメされた可愛い感じになってしまっていたんです。今の大人の目で見ると、それはそれで味があるんですが、第一次怪獣ブームの時に小学生だった自分としては大いに不満だったんです。それは「本物」の怪獣に似ていないことでした。もちろん、それが映像世界の中のことであるのは、子供の自分でも理解していましたが、それでも、この「似ていない」という部分は、すこぶる不満だったわけです。なんだかニセ物をつかまされているような気分がして仕方がなかった。
ガンダムのプラモデルの優れた部分であり、今までになかった部分として、スケールモデルとして、リアルに設計されている。これが「本物」に対するアプローチの方法です。
そこで、「怪獣復活計画」では、過去の商品とは差別化して、「本物」志向でいくべきだと考えたんです。30センチサイズの大型商品、中型のソフトビニール人形、ミニサイズの消しゴム人形、全て一貫してリアルであるべきだと思ったんです。
―――そのアイディアは、現在の食玩やガシャポンに見られるリアル志向の先駆でもありますね。
渡辺:当時、マニアの間ではガレージキットという商品ジャンルが形成されつつあったんです。一般メーカーの大量生産品をはるかにしのぐディティールと完成度。このトレンドを何とか取り込めないものかと考えたんです。
高山さんの30センチガラモンを最高のお手本として、まずはビッグスケールから着手することになりました。
ここでも、安井さんの知識量、発想力と人脈に助けていただきました。あとで知ったことなんですが、安井さんは、天才的な雑誌編集者であり、キャラクターブームの陰の立役者でもあったんです。怪獣はもちろん、ガンダムブームにも相当の貢献をされた方だったんです。
怪獣のラインナップとか、二人でよく飲みに行って相談しましたよ。
ウルトラシリーズなら、主役のウルトラマンに、人気キャラクターでバルタン星人とレッドキング、それに東宝のゴジラと大映のガメラの双璧、それに高山良策さんの傑作として大魔神などが上がってきました。
ウルトラマンの企画の話で盛り上がったのが、顔の造形のバリエーションでしたね。自分は小学生の時に気づいたのですが、ウルトラマンの顔が明らかに変わる時期があるんですよ。最初、でこぼこだったのが、中盤ツルリとしたおちょぼ口になって、終盤、大きな口になる。「じゃあ、この3タイプ、全部やりましょう!」って、それで呼び名が欲しいということになって、出来たのが、ウルトラマンA、B、Cタイプなんです。
―――今では、特撮マニアの常識ですが、それが原点だったんですね。
渡辺:浅草の飲み屋での、単なるバカ話ですよ。でも、このバカ話を実際に商品化へ発展させてくれたのが、安井さんだったわけです。最大の功労者ですね。
最強の軍師・安井氏を擁して、「怪獣復活計画」実現へと突き進む渡辺。
安井氏の人脈と交流する中で、思いもよらぬ出会いが待っていた!
次回、乞うご期待!
【補足解説】
- 「安井尚志」
- 雑誌・書籍の企画構成から、アニメ・特撮の設定考証やマンガ原作、果ては造形のディレクションまで行う万能型編集者。原作に無い設定は、創り出していくという誌面展開を得意とし、原作自体の世界観を拡大させていった。渡辺氏と出会った当時は、『ウルトラ超伝説アンドロメロス』を中心としたウルトラシリーズの外伝的な世界構築に尽力していた。また、ほぼ同時期に『ガンダム』に登場するモビルスーツの試作型や発展型である「モビルスーツバリエーション(MSV)」を児童誌やホビー誌上で展開。実際のアニメーションには登場しない機体にも関わらず大好評を博し、後に大規模な商品展開を生むに至る。エモーション時代になってからも、押井 守氏の実写作品『紅い眼鏡』に造形アドバイザーとして参加するなど無くてはならない存在である。
- 「ガラモン」
- 『ウルトラQ』(1966年)の第13話「ガラダマ」、第18話「ガラモンの逆襲」に登場する人気怪獣。後にこの連載にも登場する成田 亨氏デザイン、高山良策氏造形の傑作怪獣のひとつ。
- 「高山良策」
- 独学で絵を学び、前衛美術画家として活躍する。その一方で『大魔神』『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『怪獣王子』『快傑ライオン丸』などの特撮作品の造型家としても有名。特に彫刻家でもあった成田 亨氏とのコンビによる初期ウルトラ怪獣は現在でも絶大な人気を誇る。1982年7月に他界されており、渡辺との出会いは惜しくも果たされなかった。
- 「大魔神」
- 1966年4月に公開された戦国時代を舞台とした大映の特撮時代劇。巨大な武神像が圧政を強いる悪大名を討つべく怒りの形相で立ち上がる。同年8月公開の『大魔神怒る』、12月公開の『大魔神逆襲』と、わずか1年間で三部作が製作された。高山良策氏は、大魔神のスーツから全長4.5メートルの実物大にいたるほとんどの造形物を製作している。
- 「ウルトラマンA、B、Cタイプ」
- 談話中にある通り、『ウルトラマン』に登場するスーツは3タイプが存在する、マスクの形状に大きな差異がある。
Aタイプ:第1話から13話まで登場。ラテックスゴム製のマスクで演技者により口の開閉が可能になることを意図したが、劇中では固定された。生物感のある造形が特徴。
Bタイプ:第14話から29話まで登場。マスクが硬質樹脂(FRP)製に刷新。ウルトラマンの原点ともいえる仏像の顔に最も近い。br />Cタイプ:第30話から最終39話まで登場。マスクの大きく広がった口が特徴。さらにボディスーツも筋肉質となり、最も人気のあるタイプ。
(改稿20070217)
© SHIGERU WATANABE
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語り:渡辺 繁
絵:大西 信之